自転車のヘルメット着用努力義務化と交通事故
1 はじめに
「自転車を運転する際に乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない」というヘルメット着用の努力義務を定めた改正道路交通法が令和4年4月27日に公布され、1年以内に施行されることとなりました。
そして、熊本市では、この改正道路交通法の施行に先んじて、令和4年10月1日より自転車利用の際のヘルメット着用を努力義務とする条例が施行されています。
今回の法改正、条例施行は、自転車が被害者となる交通事故にどのように影響があるでしょうか。
2 致死率の低下
まず、なにより、自転車用ヘルメットの着用によって、自転車乗車中の交通事故に占める死亡事故の件数ないし割合の減少が期待されます。
警察庁は、自転車乗車中の交通事故で亡くなられた方の約6割の方の致命傷が頭部にあること、ヘルメットの着用の有無で致死率に2倍以上の差がついていると報告しています。(警察庁のウェブページ:https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/anzen/toubuhogo.html)
実際に交通事故事件を取り扱っていると、頭がい骨骨折、脳内出血などの頭部外傷が、死亡の原因となっている案件に接することがあります。また、頭部外傷によって、高次脳機能障害などの重度の障害が残存することも多くなります。ご自分の命や大切な方の命、健康な体での生活を守るために自ら適切な対応をすることは必要でしょう。
とはいえ、ヘルメットの着用のみで死亡事故や重度障害を予防することはできません。傘さし運転やスマホ操作などのながら運転をしない、夜間のライトや反射材の利用、交差点や見通しの悪い場所での一時停止、徐行など、日ごろの安全運転ももちろん大切です。
3 未着用時に賠償額の減額はあるか
ヘルメットの着用は「努めなければならない」という「努力義務」とされており、着用していなかったからといって、道交法違反として罰則等を受けるわけではありません。
では、自転車運転者がヘルメットを着用していなかったことで、頭部に重大な外傷を負ってしまったような場合に、自転車運転者側の落ち度として交通事故賠償金が減額されることがあるでしょうか。
バイクや原付を運転する際にヘルメットを着用していなかったり、自動車に乗車する際にシートベルトを着用していなかった場合、交通事故賠償では賠償額が減額されることがあります。これは、交通事故によって生じた損害が拡大してしまった原因が被害者側にもあるとして減額されるものです。
今回、自転車運転者のヘルメット着用義務は努力義務にとどまりますが、今後の社会内への浸透状況や、発生した事故の自転車側の運転態様などによっては事故賠償金が減額される可能性は十分あると思います。
4 今後の対応
ヘルメットを着用しないと、賠償金額が必ず減額されると言い切れるわけではありませんが、ご自分やお子様などの生命、身体を守ることができるというヘルメット着用によるメリットはかなり大きなものです。
ちなみに、私は弁護士になって以来、通勤にマウンテンバイクを利用していますが、必ずヘルメットを着用するようにしています。
自転車は、基本的に車道の左端を走行し、車道を走行する自動車ととても近い場所を走ることになります。スポーツサイクルだけでなく、シティサイクルを利用する場合でもヘルメットを着用するようにしましょう。
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