2023/01/25
1 はじめに
会社役員が交通事故に遭った場合、役員が受け取る「役員報酬」の性質から、休業損害や後遺障害の逸失利益の算定において、その「基礎収入」をどのように計算するかが問題となることは、「会社役員の仕事に支障が出た場合の休業損害」でも述べさせていただきました。
では、交渉や裁判の準備のために、どのような準備をすればよいでしょうか。
2 会社役員の休業損害についてのおさらい
上記コラムのとおり、「役員報酬」については、「利益分配」の側面があることから、その全額が基礎収入と認定されず、「労務対価部分」を基礎収入として算定することになります。
会社によっては、「役員報酬」と「給与」とを分けて支給されている場合もありますが、これらの「支払名目」は一つの判断要素に過ぎません。「労務対価部分」か否かは、形式的に判断するのではなく、様々な判断要素を検討して個別具体的に判断されることとなります。
裁判例で判断の要素とされている事情は、「会社の規模(及び同族会社か否か等)や利益状況」、「当該役員の地位・職務内容」、「役員の年齢」、「役員報酬の額」、「他の役員や従業員の職務内容と報酬・給与の額(親族役員と非親族役員の報酬額の差)」、「事故後の当該役員及び他の役員の報酬額の推移」、「類似法人の役員報酬の支給状況」などです。
そうすると、交通事故の被害に遭った会社役員は、これらの各事情を参考に、自分が受け取っている役員報酬のうち、「労務対価部分」がどのような金額になるのかを説明する必要があります。
3 担当する具体的な業務の内容をベースに
当該役員が会社の中でどのような業務を担当しており、交通事故で生じたケガの治療などによって担当する業務に従事できなかったことでどのような支障が生じていたのかという点が、休業損害等を考える出発点になります。
担当している業務の内容や量によっては、役員報酬は、利益配当としての側面が強いと判断されることもあります。非常勤役員としてほとんど会社の業務を対応していないような場合などは、得ている役員報酬の金額次第では、ほとんどが利益配当に該当すると判断される場合も考えられます。
担当する業務部門に所属する従業員がいる場合は、各従業員が得ている給与の金額を前提に、当該業務部門の責任者である点を加味して「労務対価」と説明することができる場合もあります。
4 ご準備いただきたい資料
役員報酬の金額を決定した「株主総会議事録」のほか、会社の規模や財務状況、役員報酬額などを確認するために、会社の「法人事業概況説明書」、「決算報告書」、「損益計算書(月次)」は複数年分ご準備していただきたい資料です。
また、役員報酬の推移や、他の従業員の給与額との比較などがわかる「賃金台帳」もご準備いただけると、分析や説明がよりスムーズになります。
5 さいごに
役員の休業損害が生じるような場合は、上記の資料等をご準備いただき、ご自身が担当されていた業務の内容や事故によって生じた支障について、弁護士に詳しくお伝えください。
会社の状況によっては、上記資料のほかにも、弁護士がご提出をお願いする資料がでてくる場合もあります。適切な賠償を得るためには、ご本人や会社のご協力も必要になりますので、ご理解くださいますようお願いします。
休業損害等でお困りの場合は、まずはアステル法律事務所の無料法律相談をご利用ください。
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