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コラム/損害賠償金額が調整される場合 ~素因減額~

2022/06/08

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Auther :アステル

損害賠償金額が調整される場合 ~訴因減額~

 

1.素因減額とは

我が国では、加害者と被害者との間で損害を公平に分担するという観点から、損害賠償責任が定められます。
事故の発生状況に応じ、過失相殺がなされるのと同様に、被害者側の事情によって損害が発生または拡大したと認められるような場合には、加害者が負うべき責任範囲が縮減されることがありえます。これを、素因減額といいます。
素因減額には、大きく分けて、身体的要因によるものと心理的要因によるものがあります。

 

2.身体的要因による素因減額

最高裁の判例上、加害行為と被害者の疾患とが原因となって損害が発生した場合で、当該疾患の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは、被害者の疾患を考慮し、損害の一部を減額することが認められています。

最高裁が素因減額を認めた代表例の1つは、被害者が交通事故の約1ヶ月前に一酸化炭素中毒に罹患しており、交通事故の約3年後に死亡したという事案です。最高裁は、交通事故当時、一酸化炭素中毒の具体的な症状は潜在化または消失していたものの、交通事故によって頭部、頚部、脳に相当に強い衝撃を受けた結果、一酸化炭素中毒による脳の損傷に悪影響を及ぼし、一酸化炭素中毒と交通事故による外傷とが相まって精神的症状が長期にわたり持続、増悪したものと認定し、一酸化炭素中毒の態様、程度その他の諸般の事情を考慮し、被害者に生じた損害のうちその50%については、加害者の責任を認めませんでした(最高裁平成4年6月25日判決)。

これに対し、最高裁平成8年10月29日判決では、被害者の首が生来長く、頚椎の不安定症が認められる事案について、首が長いという特徴が疾患にあたらないこと、このような身体的特徴を有する者が一般的に負傷しやすいものとして慎重な行動を要請されるといった事情は認められないこと等から、首が長いという身体的特徴が、交通事故による外傷と競合して損害が発生し、または、損害の拡大の一因であったとしても、かかる身体的特徴を理由に損害賠償額を調整することは認めませんでした。

その他最高裁判例、裁判例に照らせば、①被害者に平均的な体格・体質と異なる身体的特徴があるとしても、それが疾患にあたらない場合には、原則として、被害者の身体的特徴を理由とする損害賠償額の調整は認められない、②被害者に何らかの疾患があり、それが損害の発生、拡大の一因である場合は、調整が認められる、と概括することができます。

 

3.心理的要因による素因減額

被害者に発生した損害が、交通事故の規模等に照らし、交通事故のみによって通常発生する程度、範囲を超えるものであって、かつ、被害者の心理的要因がその損害拡大の一因となっている場合は、加害者の負担すべき損害賠償額を調整することができるものとされています(最高裁昭和63年4月21日判決)。

同判例の事案は、軽度の追突事故の被害者が、交通事故によって頭頸部軟部組織に損傷を生じて外傷性頭頸部症候群の症状が発生し、12年余り治療を継続したというものでした。

最高裁判例、裁判例に照らせば、①被害者に発生した症状が、交通事故の態様、規模等に照らし、通常発生すると考えられる症状を超えており、したがって一般的な加療期間を超える治療を要する場合であって、②かかる症状の発現が、被害者の心理的要因にもよるものであると認められ③被害者の訴える症状の原因について多角的な医学書県が認められないときは、損害賠償額の調整が認められる、と概括することができます。

 

4.まとめ

交通事故によるおけがについて、交通事故のみが原因なのか、被害者側の事情も相まってのものなのかを判断することは容易ではありません。

特に、交通事故前には自覚症状がなかったものの、診察の結果、経年性ヘルニア、ストレートネック、脊柱管狭窄症等を指摘されたという例や、骨粗鬆症が相まって骨折に至ったと考えられる例、交通事故前からうつ病等の精神疾患があったという例がよくみられます。

適切な賠償を受けるためには、裁判所の判断を想定したうえで、交通事故が原因であることを示していく必要があります。

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