シートベルト装着義務違反を理由として過失相殺されるか
※チャイルドシート装着義務違反については、コラム「チャイルドシート装着義務違反を理由とした過失相殺」をご覧ください。
1.シートベルト装着義務
平成20年6月以降、高速道路・一般道路を問わず、運転席・助手席・後部座席すべてについて、シートベルトの装着が義務付けられています。運転者が、シートベルトを装着しなかったり、同乗者に装着させていなかったりすると、一般道路での後部座席の装着義務違反を除き、1点の違反点数が付されます(2021年8月現在)。
一定の場合にはシートベルト装着義務が免除されますが、それは、自動車をバックさせるときの運転手や、疾病・妊娠等の理由でシートベルトを使用できない場合、肥満でシートベルトを着用出来ない場合等に限られます。
2.過失相殺についての判断
シートベルトを装着せずに交通事故に遭い、けがを負った場合、加害者側から、「被害者には、シートベルトを使用すべきだったのに、使用していなかったという過失がある。シートベルトをしていれば、そのけがは避けられた。もっと軽いけがで済んだはずだ。」、と主張されることがあります。
裁判例では、シートベルト装着が道交法上の義務であること、実際の効果としても、シートベルト装着により、交通事故に遭った場合の被害を防ぎ、または大きく軽減できること、このようなシートベルトの効果が世間一般に広く知られていること等に照らし、5%から10%程度の過失相殺が認められています。
単にシートベルトを装着していないにとどまらず、助手席で後ろ向きに座っていたり、後部座席に横になって寝そべっていたりした事例では、20%~30%の過失相殺が認められたものもあります。
3.過失相殺されない場合は限定的
裁判例を見ると、以下のような例では、シートベルト不装着を理由とする過失相殺がされていません。
1)因果関係が認められない場合
軽自動車と大型トラックの正面衝突のように、シートベルトを装着していたとしても、被害者の負ったけがに差異はなかっただろうと考えられる場合には、過失相殺はされません。
事故の態様、被害者のけがの内容・程度、運転者・他の同乗者のけがの内容・程度、シートベルト装着者とのけがの内容・程度の差異の有無等の事情に照らし、シートベルトを装着していればけがが発生しなかったか、もっと軽いけがで済んだと認められるかどうかが争われることになります。
2)道交法上のシートベルト装着義務が免除される場合
上述の、道交法上のシートベルト装着義務が免除されるような場合は、「被害者がシートベルトを使用すべきだった」といえないため、過失相殺はされません。
3)加害者の過失の程度が著しく大きい場合は、装着義務化前の裁判例にとどまる
過失相殺は、被害者と加害者が、それぞれどのくらい事故の発生に責任を負うか、損害をどのように分担すべきか、を考えるものです。そのため、加害者の過失が著しく大きい場合には、被害者のシートベルト不装着を理由とする過失相殺は行われなかった裁判例があります。
もっとも、このような処理をした過去の裁判例は、シートベルトの装着が義務化される前の後部座席のシートベルト不装着の事例ですので、現在も同様に考えられるとは限らない点に注意が必要です。
過失割合、過失相殺の判断については、事故賠償の裁判実務上どのように処理されているかを確認したり、立証するための証拠を集めたりと、ご本人のみでの対応が難しい争点となります。
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