2020/09/04
1 事案の概要
この事案は、事故当時4歳だった被害者が、道路横断中に大型トラックと接触する交通事故にあい、脳挫傷等の傷害を負い、後遺障害等級別表第2第3級3号の高次脳機能障害が残存した事例です。
被害者側は、後遺障害の逸失利益(障害が残存することで失ってしまった将来得られたはずの収入分の損害)について、就労可能期間の始期である18歳になる月の翌月から、その終期である67歳になる月までの間の収入額について、各月に定期金によって支払うことを求めました。
2 定期金賠償とは
交通事故による損害賠償請求を行う場合の損害は、交通事故の時点ですべて発生するわけではありません。損害の中には、将来得られるはずだった給料や、将来発生する医療費や介護費など、将来にわたって発生する損害も多くあります。
一般的な賠償方法としては、将来発生するはずの損害も一括して算定して賠償が行われます(「一時金賠償」といいます。)。この場合の将来発生する損害の算定については、本来なら賠償日に発生するものではないため、運用すれば得られるであろう利息について除外する計算をします(「中間利息控除」といいます。)。そのため、例えば月額20万円の給料を20年もらい続ける場合、20万円×12か月×20年、という計算ではなく、20年に相当する中間利息控除を考慮した係数(ライプニッツ係数等)をかけることになります(20年に相当するライプニッツ係数は14.8775となり、20万円×12か月×14.8775=3570万6000円となります。)。
他方で、今回の請求のような定期金賠償の場合、損害が発生するごとに定期的に支払われることになるため(事案では、将来得られる月次給料相当額を毎月賠償するという内容)、中間利息控除をする必要がありません。そのため、上の例では、毎月20万円が支払われることとなり、逸失利益の総額は、20万円×12か月×20年の4800万円になります。
また、定期金賠償の場合、被害者の病状や介護状況の変更、社会情勢の変化による費用の大幅な変化などの事情変更の場合に対応することができることも利点として挙げられます。
これまで、将来の介護費用について定期金賠償が認められていましたが、後遺障害逸失利益については明示されていませんでした。
3 本判決の内容
本判決では、後遺障害による逸失利益についても、算定の前提となる事情に著しい変更が生じた場合に乖離を是正し、現実化した損害の額に対応した損害賠償額とすることが公平にかなう場合があるとし、被害者に生じた損害を填補するという目的と、損害の公平な分担を図るという理念に照らして相当と認められるときは、定期金賠償の対象となると判示しました。
また、定期金賠償の終了時期について、加害者側からは被害者の死亡時までとするべきだと主張されていましたが、交通事故の時点で、被害者が死亡する原因となる具体的事由が存在し、近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り、就労可能期間の終期までの賠償となる(本件では67歳になるまで)としています。
小池裕裁判官の補足意見では、仮に期間中に被害者が事故と別原因で亡くなった場合には、定期金賠償から、その時点での一時金賠償に変更する訴えを提起する方法が検討に値すると述べられています。
4 どういう場合に定期金賠償を検討するか
まず、定期金賠償が認められる可能性があるのは、「将来介護費」と「後遺障害の逸失利益」です。
将来の事情の変更によって、事故直後に算定した内容と乖離が生じる可能性がどれほどあるのか、という点を具体的に検討することになります。例えば、被害者が重度の障害を負っているところ、当面自宅でご両親による介護ができたとしても、それが何十年もかかることで、両親が高齢になってしまい介護ができなくなることが考えられる場合です。
定期金賠償のメリットとして賠償額の総額は増えますが、他方で、その後相手方からの支払いを受け続けるということは、相手からの支払いを確認し、支払われていない場合に催促する必要もありますし、特に途中で事情変更などが生じると、再度の協議や訴訟などを要することとなり、いつまでも負担が継続してしまうという側面もあります。
賠償金が増えるからと、安易に定期金賠償を選択するのではなく、いろいろな視点から慎重に検討するべきといえるでしょう。
当事務所では、一時金での賠償額と定期金の賠償額とを算定したうえで、後遺障害の状況、介護状況、その他ご家族の状況や将来の可能性を、依頼者と多角的に検討して対応します。賠償の方法についてお悩みの場合にもご相談ください。
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